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鶏(とり)を訪ねて三千里 あるいは 鶏たちの帰還

コーケコッコ―!!

絶えて久しかった鬨の声が谷中に響き渡る。そうだ、トリたちが帰ってきたのだ。

悪の枢軸キツネ(とはいえ、キツネにも守るべき命や家族がいたのだろうと思う)に一晩で根絶やしにされて以来、鶏舎の中は荒れ放題で雑草も旺盛に生えていたのだが、今は雄2羽、雌5羽のウコッケイが闊歩するようになった。

実はウコッケイ帝国の滅亡以来、次世代を育成しようと有精卵を購入し孵卵器で孵そうと試みてきていたのだが、結果は惨憺たるありさまで2サイクル目にしてようやく一羽孵ったところだった。この一羽に希望を抱きつつも、手間暇の割に孵らない卵に業を煮やしつつあったところに、ウコッケイの里親募集の情報を入手したのだった。埼玉のとある工場の片隅に、従業員の方が社長に内緒で(?)こっそり大切に飼っていたのがばれてしまったので、貰い手を探しているというのだ。ウコッケイのメスが里子に出されるのは珍しいので、埼玉という距離の遠さもなんのその、頂きにあがることを申し出ることにしたのだ。連絡がついた時には、すでに鶏舎の解体作業も進められており、次の日には完了する予定とのこと。貰い手がないニワトリは、肉になるということで、急ぎ参上することにした。

岡山に越してきて以来、他県(お隣の兵庫県赤穂郡は別)に出ることは本当に珍しく、実は今年初めての越境。ましてや久しぶりの関東圏である。ワクワクしながら、旅程を急遽計画。電車では帰りにニワトリかごを積み込むのも難しいので車で行くことにする。グーグルマップで検索したとところ、高速を使うのと下道で行くのではその差2時間くらい(後で検索のオプションに問題があったことが判明、実際には7時間以上の差がある)、、、、少し不思議だなと思いつつも、岡山に来た時にすごく時間がかかった記憶があり、あまり気にせずに「じゃあ、下道で行くか」と思ってしまい、そのまま出発したのが午後4時頃。荷台にはトリを入れるケージ、そして帰路のための鶏のエサと水を積んで、意気揚々の出発である。国道2号線、1号線、246号線を使いつつ、あとはグーグル先生任せの旅である。

これまでの経験から、ドライブ中にお腹が膨れると眠気に襲われるので、食べ過ぎないように注意しながら、サンドイッチ、カフェオレ、眠気覚ましのガムを交互に口に入れながらの運転。あまりにもカフェオレを飲みすぎたのか、途中尿意を催しので、どこか人目のつかないところでイタすかと思いながら運転していたら、なかなか人家の途切れるところがない、、、、。忘れていました、日本ってこんなに人が住んでいたってことに。

かと思えば、三重の鈴鹿山脈あたりを超えたときには鹿が道路上をウロウロしていて、「ここは和気か?」と錯覚するほど。日本のバラエティ豊かな風景を楽しむことができました。

8時間余りのドライブを愉しみそろそろ寝ようかと止まったのは、道の駅掛川。さすがにこの頃には何かおかしいなと感じ始めて、再度グーグルマップで経路検索をかけてみると、高速に乗ったら超絶に早く着くことが"判明"。しかも、高速料金が意外に安い(新幹線代よりも安い)ということも併せて判明、、、、。なぜ下道で来たんだろうと自問しながらも、「景色は楽しかったもんね....」と独り言ちながら狭いシートの中、眠りに落ちたのだった。

翌朝は静岡あたりから富士山麓に入り、御殿場から丹沢山の脇をすり抜け、東京に向かった。このあたりになると、比較的なじみのある土地もあり、懐かしいなぁといろいろな記憶がフラッシュバック。東京圏に飛び飛びとはいえ、16年ほどはいたのだから、思い出も色々。しかし、都心に近づくと却って印象が薄いことに気づく。3年くらい住んでいた家のすぐ近くも通ったのだけど、なんだか人工物が多くて、不可思議に見えてしまったりもする。すっかり野の人になったのだなぁと思いながら、鶏の飼い主さんのところに向かう。

工場敷地の表入り口をそれて脇の細道をすり抜けると、用水路の脇に丁寧に作られた鶏ケージが重ねられていた。その作りこみ方から、飼い主さんの鶏愛を感じる。オスの一羽を選んだ時、「本当はそれを持って行ってほしくはないんだけどね、、、、」と名残惜しそうなセリフが印象的だった。

さて、帰りの旅はあまり語ることは少ない。何せ高速に乗ったからだ。ただ眠気に襲われかかったため、3つに一つくらいのサービスエリアを利用したのが思い出か。2日目の夜もとっぷりと更け、家に帰りついたのは夜中の2時頃。普段は寝ているだろう時間に、高速道路の街頭やトンネルライトの光を浴び、ニワトリも憔悴しきっているようだが、金網を補強した鶏舎に移す。真っ暗闇に近いので、鶏たちにとっては恐怖に違いないのだが、起きたときはパラダイスが待っているからなと声を掛けて眠ったのだが、、、その次の朝が冒頭の通りだ。まだ雨のやまない早朝から、二羽の雄がかわるがわるに声を上げている。覗きに行くとまだ新しい環境に慣れない様子だったが、やがて我が物顔で歩き回ることを願って、自分は二度寝に戻る。鶏が戻ってきた、そう呟きながら。